学校OTの現場から(稲毛礼子さん)
学校に作業療法士(OT)を...
まだ多くの人には馴染みのない存在かもしれません。でも全国のあちこちで、子ども・教員・保護者・学校全体を支えているOTたちがいます。
このシリーズでは、学校現場で働くOTのリアルをインタビューを通してお伝えしていきます。

テーマ1 背景・きっかけ
Q1. 学校で作業療法士として働くことになったきっかけを教えてください。
きっかけは、街中での活動でした。地域活動がしたくて、単独でマルシェやイベントに出ていました。その姿を見てくださった親の会の代表の方が声をかけてくださり、その方が学校運営に関わっていたことから、小平第四中学校の校長先生に紹介してくださいました。その後、校長先生から「校内教育支援センターに作業療法士(OT)を導入してみたい」とのお話をいただき、その役割の一つとして、不登校の児童生徒への支援が期待されていました。
学校の仕組みもよく分かっていないまま、できるのかどうか、中学生とうまく関われるのか不安でした。そんな気持ちを、当時、学校介入で話題になっていたNPO法人はびりすの山口代表に思い切って相談してみました。「学校でできることは、OTとして多い。やってみる価値はある」と後押ししていただき、介入することになりました。
校長先生が「気持ちを楽にする授業」として設置してくださいました。その後、教育委員会からお声がけいただき、新しく立ち上がった情緒固定級の小学校クラス・中学校クラスの巡回相談、さらにチャレンジクラスのゲストティーチャー、学校と家庭の連携推進事業におけるスーパーバイザーとして、学校に入る機会が増えていきました。
Q2. 学校OTとしての仕事を始める前と後で、「学校」への見方はどう変わりましたか?
組織については、とても忙しい現場だと思いました。まず年間スケジュールをいただいたのですが、毎日の行事やイベントの多さに驚きました。思わず自宅の脱衣所に貼り、時間があるたびに眺めて把握しようとしましたが、なかなか難しかったです。
先生方については、とても忙しく、給食の時間も慌ただしい印象です。その中で、生徒たちの情報を収集し、とにかくマルチタスクの連続をこなしている様子で、本当に忙しそうだと感じました。
テーマ2 日常の仕事・支援の実際
Q3. 学校でのOTの1日・1週間はどのように過ごしていますか?
不登校支援教室では、月1回のペースで関わっています。1コマ分の授業準備や校長先生へのご挨拶、参加してくれそうな生徒さんへの声がけを行い、その後、2コマの授業を行います。学校で過ごす時間はおおむね2時間半程度です。
情緒支援級の巡回相談の日は、年に2~3回あります。10時に学校へ行き、最初の30分ほどで当日の流れや、観察・助言を希望する生徒さんの情報共有を受けます。その後、授業をランダムに見学し、お昼は教室で一緒に給食をいただきます。
3時半ごろに生徒たちが帰り、少し落ち着いた後に、先生方との相談時間やフィードバックの時間を取ります。
Q4. 支援の中で「これがうまくいった」と感じたエピソードを教えてください。
先生が打ち解けて、「自分の葛藤」を話してくださるようになった時でしょうか。
巡回相談をする立場で入るため、問題点から会話が始まることが多いのですが、先生方の内側にある「想い」のようなものが、話しているうちに徐々に出てくるのです。
生徒さんたちの個性や良いところを先生方がよく分かっていて、愛おしく感じていること。
一方で、教育者としての立場でやらなければならないことや、集団として取り組まなければならないこととの間で葛藤しているお気持ちを聞けると、一緒に悩める土俵に乗せてもらえたようでうれしくなります。
情緒支援級の小学校と中学校には2~3年ほど行かせていただいており、小学校から中学校に進学した生徒さんの情報を共有できたり、物語がつながっていくこと、情報提供ができることに、やっていてよかったと感じます。

Q5. 環境調整・合理的配慮として、実際にどんな工夫をしていますか?。
不登校支援教室では、みんながフラットに話せるように、机を円形に並べます。そこに見学の作業療法士や先生方、時には教育委員会の方も入ります。普段は上下関係がある間柄でも、円卓にすることで分け隔てなく、おしゃべりしながらワークができるようになります。
巡回では、先生方が今工夫していることをなるべくお聞きします。
積極的にアドバイスをするというよりは、先生方が今努力していることや工夫していることを聞き、「合っていますか?」と聞かれた時に、「合っています。よく考えられていますね」とお答えすることがほとんどです。その中で、さらに試せそうなことをお伝えし、「試してみてどうだったか、次回教えてください」とお話しすることも多いです。
また、事例が載っているおすすめの書籍を貸し出したり、紹介したりしています。
テーマ3 教員・チームとの協働
Q6. 担任の先生や特別支援コーディネーターと、どのように連携していますか?
担任の先生とは、フィードバックの場でお話しすることが多いですが、近隣で偶然お会いすることもあります。また、OTに興味がある先生には、東京OT学会にお誘いしたこともありました。
不登校支援教室では、カウンセラーの先生や養護教諭の先生、担任の先生、教頭先生、校長先生、学年主任の先生など、さまざまな先生が参加してくださいます。ワークを楽しんでいるうちに、自然と打ち解けていくこともあります。
学校の先生方にとっても、少しでもほっとできる場になれたらと思っています。
Q7. 最初、先生方にOTの役割を理解してもらうのに苦労しましたか?どう乗り越えましたか?
OTの役割をしっかり伝えることを積極的にしてきたわけではありませんが、困りごとに柔軟に寄り添い、何でも話してほしいという姿勢は体現しているつもりです。
これは精神科病院にいた時も、児童発達支援にいた時も同じです。
専門職としてだけでなく、一人の人として出会い、そこから生まれる物語を一緒に楽しむような感覚で、先生方とも接しています。
私は、OTの宣伝部長として振る舞うようにしています。まずは私自身を知ってもらい、そこからOTに興味を持ってもらえればよいと思っています。
実際に興味を持ってくださる先生もいらっしゃるので、少しずつ、「役割」というよりは「在り方」が伝わっていると感じています。
Q8. 保護者との関わりで大切にしていることは何ですか?
保護者の方々のコミュニティの中に自然に入り、一緒に時間を過ごすことを大切にしています。
親の会などに誘われれば、参加するようにしています。親御さんは本当に熱心な方が多く、情報共有もよくされています。
私も情報をいただきに行ったり、現在のお困りごとを見聞きさせていただいたりしています。

テーマ4 課題と今後の展望
Q9. 学校OTを全国に広げるうえで、最も大きな壁は何だと思いますか?
学校の文化を知ること、またOTを知ってもらうことが大切だと思います。
少しずつ、OTという職業を知っている人は増えてきていますが、まだまだ認知度は低いと感じています。
ぴんくまと出会ってから、初めて作業療法士を知ったという言葉をよく聞きます。
また、作業療法士側も、学校で何ができるのか、どのように伴走できるのかを聞き、伝え、コミュニケーションを取ることが必要だと感じています。これは、どんな現場でも共通することだと思います。
Q10. これからOTとして学校に関わりたい方へ一言メッセージをお願いします。
まずは興味を持ったら、飛び込んでみてください!
気になっていても、行動しなければ知らないままです。
新しい文化を楽しんでください。

稲毛 礼子(いなげ あやこ)
ぴんくまシャ代表/都立府中療育センター/小平市教育委員会任用職員
作業療法士
プチ田舎の東京都小平市に産まれ、育ち、働く、小平大好きっ子。
OT養成校卒業後、精神科病院に9年勤務。統合失調症、鬱、摂食障害、アルコール薬物依存、パーソナリティ障害など多岐の心理教育、治療プログラムに関わる。精神科で学んだことを使いながら病院を出て、療育、学校、地域など様々な所に出没。ぴんくまスタイルで不登校支援も行う。
笑うより笑われろ、の精神で汗をかきながら笑顔を作り出している。



