学校OTの現場から(奥津光佳さん)
- 6月1日
- 読了時間: 10分
更新日:6月2日
学校に作業療法士(OT)を...
まだ多くの人には馴染みのない存在かもしれません。でも全国のあちこちで、子ども・教員・保護者・学校全体を支えているOTたちがいます。
このシリーズでは、学校現場で働くOTのリアルをインタビューを通してお伝えしていきます。

テーマ1 背景・きっかけ
Q1. 学校で作業療法士として働くことになったきっかけを教えてください。
きっかけは、飛騨市地域生活安心支援センター「ふらっと」に、小・中学校からの相談が増えていたことでした。
「ふらっと」は、就労・家計・障がい・ひきこもり・子育て・虐待など、世代を問わずあらゆる暮らしの悩みを受け止め、必要な支援へとつなぐ飛騨市の総合相談窓口です。作業療法士である山口OT(NPO法人はびりす代表)が相談専門員を務めており、学校現場からの相談も数多く寄せられていました。
私はその中でも、読み書きに関する相談を中心に担当し、子どもたちの学習支援のために小・中学校へ訪問するようになりました。これが、学校と関わることになった始まりです。
「ふらっと」での活動や学習支援を続けるうちに、学校の先生方にも作業療法士の役割が少しずつ伝わっていきました。そして「学校の中で継続的に支援できる仕組みをつくろう」という流れが生まれ、誕生したのが「学校作業療法室 1, 2)」です。
現在は、飛騨市内の全8校の小・中学校を巡回しながら、子どもたちの日々に関わらせていただいています。
Q2. 学校OTとしての仕事を始める前と後で、「学校」への見方はどう変わりましたか?
大きく変わったのは、「学校の先生は、こんなにも忙しいのか...」ということです。
日々の教室運営はもちろん、一人ひとりの子どもへの対応、授業の準備、給食・掃除の指導、委員会活動、クラブ活動、放課後の研修や会議、保護者や関係機関との連絡調整。先生方は、想像を超える業務をこなしながら、子どもたちの教育に向き合っていました。実際に学校の中で働かせていただくまで、その多忙さは見えていませんでした。
だからこそ、学校OTとして大切にしていることがあります。それは、子どもだけをクライアントとして見るのではなく、先生も、ご家族も、クライアントであるという視点です。
子どもを支えるには、子どもと毎日向き合う先生が少しでも楽になること、家族が安心できることが不可欠です。みんなにとって「意味のある変化」を生み出すことが、学校OTの本質だと考えています。
テーマ2 日常の仕事・支援の実際
Q3. 学校でのOTの1日・1週間はどのように過ごしていますか?
週に3〜4日、学校へ訪問しています。
1日の始まりは、担当の先生とのスケジュール確認から。授業の時間帯は、教室での児童観察、授業時間をお借りして行うワークショップ、通級指導教室への参加など、学校の流れに沿いながら動いています。子どもと直接関わる時間も作っており、「CO-OPアプローチ 3, 4)」や「じぶん研究 5)」を用いたと関わりや、必要に応じた検査の実施なども行っています。
放課後は、先生方との振り返りや情報共有の時間です。また、保護者に学校へお越しいただき、家庭での工夫や今後の学校生活についての作戦会議を開くこともあります。状況によっては、子ども本人にも同席してもらいながら、四者で一緒に考えていきます。
Q4. 支援の中で「これがうまくいった」と感じたエピソードを教えてください。
通級指導教室を利用しているある児童と、担当の先生と三人でCO-OPアプローチに取り組んだときのことが、今も印象に残っています。
その子は、算数の筆算、特に繰り下がりのある引き算をなかなか習得できずに困っていました。繰り下げた後の数をいつも間違えてしまうのです。
三人で「どうすればうまくいくか」を一緒に考えていくと、その子が自分で「図書く作戦」というアイデアを思いつきました。繰り下がりの計算をするとき、必要な数だけノートの端に丸を書き、引く数の分だけ消していくという方法です(たとえば14−7なら、丸を14個書いて、7個消す)。シンプルですが、その子自身が考えた作戦でした。
この作戦を思いついた後、その子は一人で繰り下がりの計算ができるようになりました。
それ以上に印象的だったのは、その後の変化です。漢字を覚えるための作戦、音読をスムーズにするための作戦など、いろいろな学習で、自分なりの工夫を考えるようになっていったのです。
子どもが自分で作戦を立てられるようになることで、自分のやりたいことを実現していけるようになるということを実感したケースでした。
Q5. 環境調整・合理的配慮として、実際にどんな工夫をしていますか?。
道具の選定、環境の調整、感覚調整グッズの活用など、子ども一人ひとりに合わせた個別の工夫はもちろん大切にしています。でも、それ以上に力を入れているのが、クラス全体で合理的配慮をし合える雰囲気をつくることです。
特別な道具や環境を導入するとき、担任の先生からよく出る不安があります。「他の子たちに、どう説明したらいいでしょう?」という声です。目立つ道具や特別な環境が、好奇の目やトラブルのきっかけにならないかということを先生が心配されるのは、当然のことだと思います。
そこで、新しい道具を導入する際は、先生に代わって作業療法士が教室へ出向き、クラス全員に説明する機会をつくっています。そのときに必ず伝えるのが、「みんなで作戦を使おう」ということです。
合理的配慮を「誰か一人の特別な工夫」にするのではなく、「みんなも自分に合った道具や環境を使っていい」という話をします。そして説明だけでなく、実際に体験してもらいます。持ちやすい鉛筆を試してみる、使いやすいグッズを手にとってみるなどの体験を通じて、「これ、いいね」という感覚が生まれると、特別感はごく自然に薄れていきます。むしろ、自分に合った道具で学ぶことが「かっこいい」と映ることさえあります。
「あの子が羨ましい」という気持ちがあるとき、実はその子自身も似たような困りごとを抱えていることが少なくありません。合理的配慮を一人の特別にせず、クラス全体の「当たり前の工夫」にしていくことで、どんな配慮も受け入れられやすくなっていくことを、現場で感じています。

テーマ3 教員・チームとの協働
Q6. 担任の先生や特別支援コーディネーターと、どのように連携していますか?
特別支援コーディネーターの先生は、学校作業療法室のスケジュールや活動内容を把握してくれています。そして、他の先生方が抱えている困りごとや相談を集めながら、「作業療法士に聞いてみませんか」と橋渡しをしてくれる、とても心強い存在です。
担任の先生とは、より具体的な話し合いを重ねています。対象となる児童についての情報共有はもちろん、「このクラス全体でやってみたらいいこと」についても一緒に考えます。一度の面談で方向性が見えることもあれば、継続的に関わりながら少しずつ変化を見守っていく児童もいます。その子の状況に合わせて、話し合いの頻度やタイミングを柔軟に調整するようにしています。
コーディネーターが「つなぐ」役割を担い、担任が「ともに考える」パートナーになってくれることで、子どもたちへの支援がより確かなものになっていきます。
Q7. 最初、先生方にOTの役割を理解してもらうのに苦労しましたか?どう乗り越えましたか?
実は、それほど苦労した記憶はありません。その理由は、NPO法人はびりすとして学校に入る際に大切にしていた姿勢にあります。それは「ひとまず、作業療法のことは置いておく」ということでした。
学校にOTが入るとき、多くの場合は作業療法の専門性を説明することから始まるのではないかと思います。でもそうすると、先生方の印象はどうなるか。「よくわからない専門家が来た」で終わってしまいかねません。先生たちが求めているのは、目の前の困りごとの解決です。作業療法ではありません。
だからこそ、最初は「先生たちのお困りごとに応えること」だけに集中しました。学習がなかなか進まない子、トラブルが絶えない子、集中力が続かない子、そういった具体的なお悩みの解消に、作業療法の知識と技術を活かしていきました。
そうするすると、言葉で説明しなくても、先生方の中に「OTってこういう人なんだ」というイメージが自然と育っていきます。やりとりはどんどんスムーズになり、相談も増えていきました。
作業療法を「理解してもらう」のではなく、「体験してもらう」。その一点に注力したことが、学校現場に受け入れてもらえた理由の一つだったと思っています。
Q8. 保護者との関わりで大切にしていることは何ですか?
一番大切にしているのは、「今目の前にいる保護者は、日々どんな体験をしているのか」を知ることです。
保護者と話す場面は、主に学校の一室で30〜60分。話題の中心は、お子さんの学校生活や今後のことです。ただ、ほぼ初対面の作業療法士が「お子さんのことで……」と切り出したところで、保護者の方がすぐに心を開いてくださるとは限りません。
だからこそ、まず知ろうとすることから始めます。今日ここに来るとき、どんな気持ちで来てくれたのか。どんな話がしたかったのか、あるいはどんな話が聞けると思って来てくれたのか。毎日の子育ての中で、何を感じ、何を考えているのか。
保護者がどんな文脈の中で今ここに来てくれているのかを、できる限り丁寧に受け取るようにしています。
その上で、子どもの学校生活に関する話が、保護者にとってほっとできるように。毎朝の見送りが少し楽しみになるように。あるいは、先生や子どもと一緒にチームとして関わることに、小さなやりがいを感じてもらえるように、そんなことを心がけながら、お話しすることを考えています。
テーマ4 課題と今後の展望
Q9. 学校OTを全国に広げるうえで、最も大きな壁は何だと思いますか?
作業療法士の可能性に関心を持ってくれている自治体や教育委員会は、全国にたくさんあると感じています。壁があるとすれば、そこへOTが実際に飛び込んでいけるかどうかだと思っています。
だからこそ私たちは、HIDAモデルがどのようにして生まれたのか、その過程や要素を丁寧に紐解き、他のOTたちが自分の地域で活かせるかたちにしていくことが必要だと考えています。研究し、ツール化し、挑戦したいと思っているOTの支えになることが、今の私たちの役割だと考えています。
Q10. これからOTとして学校に関わりたい方へ一言メッセージをお願いします。
「学校」でしか、知れないこと、できないことがたくさんあります。
子どもと家族と先生たち、みんなの役に立つことを一緒に探求していきましょう!
奥津 光佳(おくつ みつよし)
株式会社りすの実 常務取締役/NPO法人はびりす正会員
作業療法士 1993年 神奈川県生まれ。
大学生の時にNPO法人はびりす代表理事である山口OTに出会い、大学で学んだ作業療法とはまったく違う世界を知り、その感動のまま卒業後に岐阜へと旅立つ。人とのコミュニケーションが得意でないが、クライアントやスタッフに助けてもらいながら、大好きな作業療法をよりよく実践できるようになるため、試行錯誤を繰り返す日々を送る。「クライアントの作業のためなら、どこへでも行き、なんでもしなさい」という恩師の教えをもとに、現在は岐阜県飛騨市内の小・中学校に常駐しながら、はびりすの仲間たちと新しい作業療法の実践モデルを創り上げ、世界へ発信しようと奮闘中。
編著書
