学校OTの現場から(神原沙希さん)
- 7月17日
- 読了時間: 8分
学校に作業療法士(OT)を...
まだ多くの人には馴染みのない存在かもしれません。でも全国のあちこちで、子ども・教員・保護者・学校全体を支えているOTたちがいます。
このシリーズでは、学校現場で働くOTのリアルをインタビューを通してお伝えしていきます。

テーマ1 背景・きっかけ
Q1. 学校で作業療法士として働くことになったきっかけを教えてください。
元々は養成校を卒業してから地域の福祉施設で主に成人の発達障害や精神疾患をもつ方の生活や仕事の支援をしていました。
その中で色々話を聞いていると多くの方が、小さいときから大変だった、というようなエピソードが語られ、もっと早くに何かできてたら今は違ってのかなぁという思いが強くありました。そんなときに診断など関係なく、困っている子どもたちのお手伝いができる学校作業療法室の取り組みを知り、これや!と思い、やってみようと思い行政と掛け合いました。
それでタイミングよく飛騨市の地域起こし協力隊の募集もあり、飛騨で学校作業療法を学び、また元々いた地域に戻り学校作業療法をスタートさせました。
Q2. 学校OTとしての仕事を始める前と後で、「学校」への見方はどう変わりましたか?
間近で学校の先生たちの仕事を見たり話を聞いたりする中で、先生たちはすごいなぁと改めて感じています。
休憩という休憩もほとんどなく、クラス全体に届くように授業の進行をしながら個別に対応が必要なお子さんのフォローもして、合間には生徒指導をして…。それでもニコニコと日々過ごされている先生方は本当にすごいと思いました。
また、先生たちの飲み会に参加させてもらった時に、経験年数が30年は超えている超ベテランの先生が、「今でも新年度は本当に緊張するんだよね」とおっしゃっていて、うまく言えないけど、教員という仕事の責任の重さやそこにかける先生たちの想いが伝わってきて、当たり前のことだけど、『学校は教育の場である』ということを強く感じました。
だから、OTプロセスを子どもたちや先生が主役で進めている感覚を持てるような学校作業療法をしたいと常に思っています。
テーマ2 日常の仕事・支援の実際
Q3. 学校でのOTの1日・1週間はどのように過ごしていますか?
今はモデル校(長野県駒ヶ根市)へ週に1回行っています。
朝にその日の予定を立ててくださっている先生と一日の流れを確認して、あとは基本予定通りに動いています。
個別の相談が予定に入っていれば子どもの様子の観察や休み時間にちょっと一緒に遊んだり、クラスでのワーク、検査などを行っています。
放課後は相談依頼やワークを実施したクラスの先生との振り返りや共有のお話、保護者からの依頼の場合は保護者さん、先生との3者の面談を実施しています。
今行っている学校は「うさぎ」がたくさんいるので、疲れた時はうさぎを眺めています。

Q4. 支援の中で「これがうまくいった」と感じたエピソードを教えてください。
まだ始めたばっかりなので書けるような劇的なエピソードはありませんが...まず先生たちと関係を築くことを最優先にして学校作業療法を実施しています。
今3ヶ月経つところですが、先生方が気軽に声をかけてくださり、「あれやってみたら効果ありました!」みたいに感想やその後を伝えてくださるのでいつも嬉しく思っています。
先生だけでなく、事務の職員さんも私がいる部屋に来てくれて相談をしてくださったときには、関係を築けてきたのかなととてもありがたく思いました。

Q5. 環境調整・合理的配慮として、実際にどんな工夫をしていますか?。
道具などをただ渡すのではなく、子どもが自分ごととして受け取れるように渡し方や用意の仕方はとても気を付けています。
例えば、人工芝があったら授業に集中しやすくなるだろうなと思ったお子さんがいたとします。その場合、人工芝をただ椅子の上に置いておくだけでは意味がありません。
大切なのは、その子が「その道具を自分にとって価値あるものとして受け取れるか」と感じられるように渡すことです。
子どものキャラクターや先生との関係性を踏まえて、誰から渡すか、どんな言葉をかけるか、どんな状況・渡し方をするかを先生と作戦会議 1-3)して渡すようにしています。
実際にそれをしてみて思ったことは、作戦会議をすることで先生自身の「道具を使う」ことへのイメージが変わる、ということです。その結果、クラス全体もその道具を特別視しなくなったり、子どもによっては「それ俺にもあるといいかも」と自分で気づくきっかけになる場合もありました。
だからこそ大事なのは、「配慮されている特別感」ではなく、「できるようになるカスタムアイテム」みたいな雰囲気を演出することだと思っています。そうすることで、道具や工夫を自然に使えるような空気感が生まれるのだと思います。

テーマ3 教員・チームとの協働
Q6. 担任の先生や特別支援コーディネーターと、どのように連携していますか?
担任の先生とは学校内のドライブを活用してやり取りをしたり、校内ですれ違ったタイミングでちょっと話をしています。
また相談をいただいた時は放課後に時間をとってもらい、実際にどんなことができるかを一緒に考えています。
「これだ!」といった答えをすぐに出せないことも多いのですが、先生方の日々されている工夫や、先生から見た子どもについてお話をうかがう中で、私自身がとても勉強になっていて、たくさん助けていただいてます。
特別支援コーディネーターの先生は、事業の学校内での進め方から1日の予定の調整まで、幅広く活動をサポートしてくださり、頼りにさせてもらっています。
例えば、相談のケースからクラス全体のワークをしましょう、と担任の先生となったときに、時間の調整などをしてくださるのは特別支援コーディネーターの先生です。担任の先生とのお話から実際それをどうするのかの調整を全て担ってくださっているので本当に感謝しています。
Q7. 最初、先生方にOTの役割を理解してもらうのに苦労しましたか?どう乗り越えましたか?
苦労したかは分かりませんが、どう考えても作業療法士って誰やねんってなることは容易に想像がついたので、それは事前に校長先生や特別支援コーディネーターの先生に共有し、そこをどう乗り切っていくかの作戦を練りました。
実際にしたことは、まず一番最初に挨拶と自己紹介を兼ねた学校作業療法に関する説明を先生方へ行いました。
それから、実際に体験するのが早いだろうということで、全クラスの先生方から『一行だけ簡単な相談』を出してもらい、それに対応していく、というお試し期間(チュートリアル期間)を設けました。
その結果、今は先生方から「次はあの子お願いします!」と相談を、たくさんいただけるようになりました。

Q8. 保護者との関わりで大切にしていることは何ですか?
保護者さんだけに限らないですが、関わりで大切にしていることは2つあります。
1つ目は、相談内容そのものだけではなく、『なぜ、このタイミングで、この相談内容でこの場にいらっしゃったのか』というような背景を理解することです。
似たような相談内容だとしても、「どんな風に、何に困っていて、普段どんなことを感じているのか」は絶対に違うと思っています。
その背景を理解しないと実際にじゃあどんなことができるか、どんな答えを保護者さんは求めているのかが見えてこないと思うので、そこを理解しようと意識しています。
2つ目は、『こうしたら良いかも!』というような気付きや発見を保護者さん自身にしてもらうことです。きっと人から言われたことより、自分で気づいたことの方が「やってみよう」と思えるし、その方が生活の中で実行できるアイデアは生まれやすいと思います。
こちらが「これしてください」と言うのではなくて、パスしてシュートは保護者に決めてもらうイメージで関わることを大切にしています。
テーマ4 課題と今後の展望
Q9. 学校OTを全国に広げるうえで、最も大きな壁は何だと思いますか?
学校OTをする作業療法士が、多分まだまだ少ないことだと思います。
私がそうだったように、「学校作業療法ってなんか難しそう」「やってみたいけど自分にできるんかなぁ」って不安を感じておられる方も多いと思います。
でも案外やってみたらできちゃった、みたいなこともあると思うし、上手くいかないことも多いけど、ちょっとずつ良くしていけるもんだと思いました。
自分が飛騨でそのプロセスを経験させてもらったので、今度は自分がそんな経験をこれから学校作業療法やってみたいぞ、と思う方たちに提供できたりしたいです。また、そのプロセスを再現性のある形にして、やりたいと思ったら誰でもできるものにしていきたいと思っています。
Q10. これからOTとして学校に関わりたい方へ一言メッセージをお願いします。
学校作業療法、一緒にしましょう!!
神原 沙希(かんばら さき)
一般社団法人Yerette/名古屋市立大学 医学部保健医療学科 研究員
作業療法士 1999年大阪府生まれ。
養成校卒業後、長野県の福祉施設で働いていたが、学校作業療法室の存在を知り、「これだ!」と気付いたら飛騨に住民票を移し、地域おこし協力隊になっていた。1年間の修行後、長野県へ戻り学校作業療法室を始めた。よく忘れ物をするので、すべてをカバンに詰め込む。今日もパンパンのカバンで学校中を走り回っている。

