学校OTの現場から(小林岳さん)
- 8月7日
- 読了時間: 9分
学校に作業療法士(OT)を...
まだ多くの人には馴染みのない存在かもしれません。でも全国のあちこちで、子ども・教員・保護者・学校全体を支えているOTたちがいます。
このシリーズでは、学校現場で働くOTのリアルをインタビューを通してお伝えしていきます。

テーマ1 背景・きっかけ
Q1. 学校で作業療法士として働くことになったきっかけを教えてください。
那須塩原市では今年度より、検証事業として学校作業療法が始まりました。
Roots 4として園や福祉の現場をサポートする中で「学校にも行かなくちゃな。」と思うようになっていたタイミングで、学校現場からも学校作業療法を始めてほしいという声が届くようになって。それで、行政に話を持ちかけたのが今に繋がっています。
個人的には病院で発達外来を担当していた頃、保護者の方や先生から、学校での様子を聞く機会が多かったんです。 でも、その話を聞けば聞くほど、病院で見ている姿と、話で聞く学校での姿が思っていた以上に違うことがあって...
その時に 「やっぱり、見ないと分からないな。」 って思ったんですよね。その話を、学校作業療法という分野を先に切り拓いていた方にしたら「行っちゃいなよ。」って背中を押してもらったことがあって。それも大きかったです。それから休日を使って、学校を見学させてもらうようになりました。
だから僕は、学校OTになりたかったというより、学校を知りたかった。 子どもの学校生活を知りたかった。子どもを理解するには、その子が過ごしている生活を知らないと始まらない。僕にとって学校作業療法の出発点は、まずその子の生活を知るということだったんだと思います。
Q2. 学校OTとしての仕事を始める前と後で、「学校」への見方はどう変わりましたか?
学校へ入る前は 「子どもが学ぶ場所」 そんなシンプルなイメージでした。
でも、一日学校で過ごしてみると 「あれ、全然違う。」って思ったんです。
先生は、一人の子どもだけではなく学級全体を見ながら、その場その場で判断している。先生同士の関係、管理職の考えや保護者とのやり取り、その学校が積み重ねてきた文化もあります。これまでの経験や、今この瞬間の判断「こんな学級にしたい」という願いが混ざり合って、日々の実践になっているんだと思います。
学校作業療法の視点は、子どもだけを見ることではなく、子ども・先生・学級・学校文化が、どう影響し合いながら日常をつくっているのかを見ることにある。そんなふうに考えています。だから、学校へ入って一番変わったのは、子どもの見方というより、学校そのものの見方だったのかもしれません。
テーマ2 日常の仕事・支援の実際
Q3. 学校でのOTの1日・1週間はどのように過ごしていますか?
現在は、市内のモデル校2校に月2日ずつ、それ以外にも月1日はモデル校以外の小学校へ訪問しています。
授業や休み時間を見ながら、子どもや先生の様子はもちろん、学級、学校全体の動きも見ています。
時には子どもと直接やり取りする時間もありますが、直接アプローチするというよりは、その子は学校の中で「どのような存在なのか」を確かめるための時間という認識でいます。
先生とは、前回話していたことの続きを確認する会話が多いんですが、何を聞くか、どんな順番で聞くか。そこも、少しずつ試しながら組み立てています。
「その後どうでした?」そんな何気ない会話を重ねながら、先生が見てきたことを教えてもらいます。
放課後には一日を一緒に振り返ります。
「今日はなんでうまくいったんだろう。」 そんなふうに、お互いが見ていた景色を重ねていきます。僕にとって対話は、OTが答えを伝えるための時間ではありません。先生とOTがお互いの見え方を持ち寄りながら、その子の学校生活を一緒に理解していくプロセスです。
一緒に学校生活を見て、対話を重ねながら、その学校に合った実践をつくっている。そんな感覚の方が近いですね。
Q4. 支援の中で「これがうまくいった」と感じたエピソードを教えてください。
最初は、子どもが変わった時かなって思ったんですけど、ちょっと違うかもしれません。
今思うと一番嬉しいのは、先生が子どもの可能性を話し始めることなんですよね。
最初は 「授業中に歩き回って困っています。」 そんな困りごとの話から始まることが多いんです。 でも対話を重ねていると、いつの間にか、「本当は、友達と一緒に授業を受けられるようになってほしい。」 というような話が増えてきます。
目指したい学校生活が見えてくると、初めて「じゃあ、何をしてみようか」という話ができるようになります。先生が「今日、こんなことができたんです。」って嬉しそうに話してくれることがあるんです。話の中心が「困っていること」から「この子って、こんなこともできるんですよ。」に変わっていくんですよね。
学校作業療法の価値は、子どもだけに働きかけて行動を変えることだけではないと思っています。先生の見え方が変わり、関わり方が変わる。その結果として、その子の学校生活が変わっていくんだと思います。
だから、僕が「うまくいった」と感じるのは、子どもの行動が変わった瞬間だけではありません。先生が、その子の可能性を楽しそうに話してくれる。
その場面が「うまくいった」と感じる瞬間なのかもしれません。

Q5. 環境調整・合理的配慮として、実際にどんな工夫をしていますか?。
環境調整や合理的配慮というと、「どんな工夫をしていますか?」と聞かれることがよくあります。正直、工夫は山ほどあります(笑)。
座席のような空間の工夫もあれば、道具を用意することもありますし、活動の順番やスケジュールを組み替えたり、音や光への感覚的な配慮を一緒に考えることもあります。
でも、もし一つだけ工夫を挙げるとしたら「先生自身が環境調整を考え始めること。」だと思っています。
最初から「これをやってみましょう。」とはあまり言いわないんですよね。
まず「この子に、どんな学校生活を送ってほしいんだろう。」そこを先生と一緒に考えます。すると、不思議と先生の方から、「じゃあ席を変えてみようか。」そんなアイデアが自然と出てくることが多いんです。先生がその子の学校生活を思い描き、先生自身が考え始める。
その背中を少し押すこと。先生が動き始めることが、その子にとって一番続いていく支援になる。僕は、そう思っています。
テーマ3 教員・チームとの協働
Q6. 担任の先生や特別支援コーディネーターと、どのように連携していますか?
ありがたいことに、今では担任の先生だけじゃなく、管理職の先生や特別支援教育コーディネーターの先生、養護教諭の先生、スクールカウンセラーの先生など、いろいろな先生方とお話しできる環境になってきました。
「連携」という言葉を使うことは多いんですけど、僕自身は、一緒に学校をつくっているという表現の方が近いですね。
先生はどう見ているのか。僕はどう見えたのか。その違いも含めて、一緒に話していく。すると、「そういう見方もあるんですね。」そんなふうに、お互いの見えている景色が少しずつ重なっていくんです。OTが正解を届けることが役割だとは思っていません。
先生と一緒に、その学校、その子にとっての”今の正解”を考えていく。
そんなイメージです。
……まあ、それが本当に正解かなんて、誰にも分からないんですけどね(笑)。
だからこそ、一緒に考え続けることが大事なんだと思っています。
Q7. 最初、先生方にOTの役割を理解してもらうのに苦労しましたか?どう乗り越えましたか?
正直、ものすごく苦労したという感覚はありません。
地域の園や学校、福祉事業所での積み重ねがあって、顔馴染みの先生も多かったんです。
それでも中には、「評価されるのかな」という不安もあったと思うので、導入段階では目的を丁寧にお伝えしました。
ただ、説明だけで理解してもらえたわけではないと思っています。
何よりも僕自身が学校や先生のことを知ろうとし続けました。
子どもの話だけでなく雑談も含めてよく話す中で、少しずつ「この人なら一緒に考えられそう」と感じてもらえたんだと思います。

Q8. 保護者との関わりで大切にしていることは何ですか?
現状では保護者の方と直接関わる機会はまだそこまで多くありません。
ただ、保護者の方とお話しするときも、一番大切にしているのは対話です。
加えて、保護者との面談は、基本的に担任の先生にも同席してもらうべきと考えています。先生の主体性を大事にしたいので、ここは意識して同席をお願いしています。
基本的に「どうしたらいいですか?」にすぐ答えることよりも、保護者の方が思い描いている未来を教えてもらいます。
保護者と先生、どちらが正しいとか、間違っているとかではないと思っていますので。ただ、見えている生活が違うだけ。保護者は家庭での姿を、先生は学校での姿を見ています。
だからこそ、家庭と学校が同じ子どもを見られるようになる。
そこに学校作業療法士としての役割があるんじゃないかなと思っています。
結局、先生も保護者の方も「この子に、その子らしい学校生活を送ってほしい。」その想いは同じなんです。
だから僕は、その想いをつなぐための対話を、これからも大切にしていきたいと思っています。
テーマ4 課題と今後の展望
Q9. 学校OTを全国に広げるうえで、最も大きな壁は何だと思いますか?
もちろん、制度や予算は必要だと思います。
でもそれ以上に大切なのは、現場の先生方が「学校作業療法っていいな。」と体感できることだと思うんです。どれだけ必要性を説明しても、実際に一緒に学校生活を見て、一緒に考えて「子どもの見え方が変わった。」そんな体感がなければ、本当の意味では広がっていかないと思っています。
もう一つは、学校を理解しようとするOTが増えること。学校へ入るということは、子どもを見るだけではありません。先生を知ること、学校という文化を知ることから始まる仕事なんだと思っています。だからこそ、学校作業療法の価値をどう可視化していくのか。それは、これから僕たち学校作業療法士に求められることだと思っています。
同時に、対話をどう設計すれば先生の気づきにつながるのか。そこを一つの型として言語化していくことも、今僕がやろうとしていることの一つです。でも、僕自身は、学校作業療法を広げたいという気持ちよりも、学校がもっと楽しくなるきっかけを増やしたい。その想いの方が強いんです。その結果として広がっていくなら、それが一番嬉しいですね。
Q10. これからOTとして学校に関わりたい方へ一言メッセージをお願いします。
ぜひ一度、学校へ行ってみてほしいと思います。
「学校生活、楽しかったな。」そう思える時間を、一人でも多くの子どもたちに過ごしてほしいと思っています。そのために、学校作業療法という仕事を一緒に広げていきましょう。
小林 岳(こばやし がく)
一般社団法人Roots4 代表理事
作業療法士 1992年 栃木県生まれ。
養成校および大学院で作業療法を学び、大学病院、精神科訪問看護での実践を経て、2024年に一般社団法人Roots4を設立し、代表理事に就任。
現在は、遊び場づくりをはじめ、園・学校・学童・福祉事業所など、子どもたちが過ごす現場で、先生や支援者と対話を重ねながら、その子らしい日常をともにつくる実践を続けている。近年は、学校作業療法の実践を重ねながら、現場の先生方とともに、自分たちなりの学校作業療法を少しずつ形づくっている。
写真を撮ることもライフワークの一つ。人と人、人と環境、その「あいだ」や「境目」にある景色に惹かれながら、現在は栃木県北をテーマにした写真展の企画にも取り組んでいる。



